foop×Celaravird
第1回:foopからはじまる新しいレストラン体験
2017年2月2日
今、東京でもっとも注目されるレストランのひとつ「セララバアド」。
人々の注目を集める理由は、オーナーである橋本宏一シェフの豊かな発想力と最新のテクノロジーの融合により、
”おいしい”にとどまらないまったく新しい食体験を提供していることにある。
つねに新しい技術や思いがけないアイデアにアンテナを張り、自らの料理表現へと落とし込んでいく橋本シェフ。
水耕栽培ができるインテリア「foop」は、まさに橋本シェフのクリエイションにぴったりと当てはまるプロダクトだ。
全3回の連載でお送りする連載の第1回目は、
実際に「セララバアド」店内で「foop」を使ってもらい、
メニュー構想から口に運ぶまでの食体験を拡張する可能性についてセッションを行った。
橋本シェフのイマジネーションとテクノロジーが融合した先にある食体験とは?
第1回目は、科学の視点を取り入れることで食のクリエイションの可能性を押し広げた「エル・ブジ」での修行経験を持つ「セララバアド」橋本シェフと「foop」プロデューサー・マーベリックの2人によるセッション。
対話のなかでは、「foop」を使ったまったく新しいメニューの提案や、客を楽しませるためのプレゼンテーション方法など、橋本シェフならではの自由なアイデアと、未来の食体験をめぐる興味深い考察が飛び交った。
“食の実験室”に投入された新たなテクノロジー
「セララバアド」のメニューは、魔法のようなイマジネーションにあふれている。さまざまな食材をムース状にしたり、液体窒素によって瞬間冷凍させた料理、そして、お皿から煙がモクモクと立ち上ったり、自然環境をまるごと再現したりといった心踊る演出は、まさに橋本シェフの独壇場と言える。
そんな彼のクリエイションを支えている大きな要素のひとつが最先端のテクノロジーだ。科学の技術やそれらを料理に応用するテクニックを駆使することで、食べる側の想像を裏切る数々のメニューを生み出している。さらに、アイデアのインスピレーション源として、最先端のテクノロジーにトライすることもあり、過去にはレーザーカッターの使用を試みたこともあったそうだ。IoTを用いて安定的に新鮮な野菜を栽培することのできる「foop」は、つねに新しいアイデアを追い求める橋本シェフにとってどんな魅力があるのだろうか?
「レストランで採りたての野菜を提供できるのは良いですね。鮮度が全然違うだろうし、お客さんの手で収穫していただくことで、食べるだけではなく、収穫の喜びを体験できるのは面白いんじゃないかな」
メニューの味わいだけではなく、プレゼンテーションまでこだわりぬく橋本シェフらしい視点だ。ここからどのようなメニューが生まれ得るのだろうか? 「foop」で育てられた野菜を実食しながら、本プロダクトのプロデューサー・マーベリックの解説とともに、対話が始まった。
IoT水耕栽培を使った新たなメニューとは?
マーベリック(以下:M) どうぞ手で取って食べてみてください。これは、リーフレタスですね。パクチーやハーブもあります。
橋本(以下:H) 手でいいんですか? いただきます。あ、やわらかいですね! 食感が違います。普段使うレタスは、サラダ用に冷蔵庫で冷やしてシャキシャキ感を出すので常温で食べるのは新鮮。パクチーは、香りがかなり強いですね。ハーブもよく香りがします。やっぱり時間が経ったものとは全然違います。そう考えると、「foop」の方がより自然に近い状態で食べることができて面白いですね。それに、自分で摘んで食べるという行為はやっぱり楽しいです。
M 自然の状態に近い、というのはその通りですね。人間と同じ生活環境のなかでも育てられる水耕栽培器というものにこだわりました。地球環境の都市化・砂漠化の進行で、世界の食糧不足問題、農業人口減少問題が深刻化していますよね。そうなると、食料を作る場所を新たに確保しなければなりません。そのとき、栽培器のなかで自然の環境を再現する必要があったんです。
ところで、プロダクトのデザインはどうでしたか?
H お店に置いていても違和感がないですね。木目調のナチュラルなデザインが、うちの北欧中心の雰囲気でまとめた内装とよく合います。
M すべて Designed and Made in Japan なので、プロダクト自体の質もかなり高いものに仕上がっています。レストランの内装に合うと言っていただけて嬉しいです。インテリアのように部屋に置いていただくことで「自分たちで育てて食べる」というムーブメントの後押しに貢献できればと考えています。実は今回、橋本シェフにお願いをしたのは、この「foop」で生まれた野菜の新しい楽しみ方を知りたいと思ったからなんです。実際に食べてみてどうでしたか?
H やっぱりフレッシュさが段違いなので、採りたての香りを活かしたハーブティーなんかは良さそうだと思いました。お客さんはその場の気分に合うハーブを選んで収穫できても面白そうですよね。新鮮さをそのまま活かして、サラダにするのもアリだと思います。素材の味を活かして、付けるのは塩とオリーブオイルだけとか。自分で採るという行為のおかげで、普段よりもゆっくりと味わいたくなる気がします。
M なるほど。面白いですね。
H あとは、育てるという部分から手をかけられるメリットを生かすこともできそうです。基本的に、料理人は育てられた後の野菜を扱うことになりますが、自分で育てられるのであれば、例えば、与える水に香りを付けて、ローズの香りのするイチゴを作ることができるかもしれません。料理だけではなく、食材の段階から工夫する面白さがありますよね。
M それは新しい発想です。うまくいくかわかりませんが、トライしてみたいですね。今のお話だけでも用途の可能性がどんどん広がっていきそうです。しばらく「セララバアド」で使ってもらうことで、どんなメニューが生まれるのかとても楽しみになりました。
アプリ連携によるストレスフリーなサポート
レストランにいながらも野菜を育てられるという利点から、料理人であると同時に生産者にもなることができるという新たなシェフのあり方が、橋本シェフの話から見えてきた。しかし、畑などとは違い、室内で野菜を育てるのは意外とハードルが高い。気温や湿度など、コントロールが必要な要素がさまざまにあるからだ。
「foop」は、そうした問題を解決するためにIoTの機能が実装されている。本体には、気温や湿度、水位、照度、CO2を感知するセンサーが組み込まれており、育てている野菜のデータがクラウドに蓄積される。そして、専用アプリを用いることで野菜の栽培日数、水位、温度などをモニタリングできるのだ。
育てる野菜の種類に合わせて用意された設定を選択すると、それぞれの野菜に適切な環境が保持されるようになっている。さらに、お手入れの時期や収穫の時期を知らせてくれるため、サポート体制も万全の状態で望むことができる。実際にアプリを使用した橋本シェフが「デザインがシンプルでわかりやすい。直感的に分かるから、アプリの言うとおり使えば良いですね」と語るように、操作や設定も簡単で誰もがストレス無く家庭で野菜を育てることのできる環境が用意されているのだ。
自然環境を再現した「foop」の可能性
—最後にお聞きしたいのですが、「foop」を「セララバアド」に導入した場合、レストランとお客さんの間にどのような食体験が生まれると思いますか? もし気になる点などがあれば併せてお聞きしたいです。
H ハーブなど育つまでに3ヶ月ほどかかる野菜もあるので、ボトルキープの要領で、お客さんがそれぞれキープしている野菜があるというのは面白そうですね。そういったシステムを作ることでお客さんとレストランの新しい関係が築けるかもしれません。あとは、食事が終わってお店を出る前に種を撒いておいて、シーズンが変わり、野菜の収穫時期にまた来店してもらうという形もいいですね。種を撒くことが予約の代わりにもなりますしね。気になることは「人工的」というイメージをお客さんに持たれるかもしれないということですね。
M 「人工的」ということや「ナチュラルさ」をどう捉えるかによるかもしれませんね。「foop」では、実際の土壌と同量の栄養素が入った水と、太陽光の代替となるLEDライトで自然環境を再現しています。つまり、すごくクリーンな野菜を育てることができるというのがメリットなんです。それに、天候や流通に左右されず、安定した供給を行うことができるのも魅力のひとつです。
H なるほど。うちでは花を食用としても使うことがあるのですが、やっぱり安定した供給元があるとうれしいかもしれません。とくに珍しい種類の花は、仕入れることができない場合もあるので。
「人工的」というのは、たしかにイメージの問題かもしれませんね。あ!またひとつメニューのアイデアを思いつきました。「冬の大地」というメニューがあるのですが、それはお皿の上に自然を再現している料理で、土に見立てた黒いパン粉が敷き詰めてあるんです。そこに「foop」から収穫した野菜を置いてあげるのも面白いかもしれませんね。土に埋まっていなかった野菜を、お客さんの手で土へと戻すという体験をしてもらうことで、お客さんが持っているイメージを払拭できるかもしれません。こんなふうに、人と環境の新しい関係性が生まれるのも面白いですね。
最先端のテクノロジーを前にした橋本シェフは、最後までアイデアが尽きない。今回、二人のセッションから生まれたメニューのアイデアや、レストランと客の新たな関係のあり方は、今後どのように実現されていくのだろうか。次回に続く。
<プロフィール>
Celaravird 橋本 宏一(はしもと・こういち)
1970年生まれ、大阪出身。「世界一番予約が取れないレストラン」と呼ばれた「El Bulli」、ミシュラン三つ星の「Martin Berasategui」など海外の一流レストランで経験を積む。
帰国後は、マンダリンオリエンタル東京「タパス モラキュラーバー」にて料理長を務め、2015年に「Celaravird」オープン。「気軽に美味しい料理を楽しめるレストラン」として、モダンでクリエイティブな料理を生み出している。